あるゲイのサワライ マモル。

東京、会社員、ゲイ

32、歯には歯を

虫歯の多い生涯を送って来ました。


幼稚園の頃、前歯がほとんど虫歯で黒ずんでいて、二―っと笑うと親が「ちょwwwお歯黒www」と笑うので、ひたすら二―っと披露していた記憶があります。
昔の人は化粧の一環で歯を黒くする風習があった、ということは知らずにやっていましたが、今思うと生まれて初めての持ちギャグは、虫歯ネタでした。


小学校に上がってからの記憶は、定期の歯科検診で必ずもらう、虫歯がみつかった子への黄色い紙。学校であの黄色い紙をもらうと、歯医者さんに行って痛い思いをする、というシステムを学習しました。
お口の中に、あんな鋭利なドリルをつっこむなんて、一体全体どうなってるんだ!?しかもしっかり痛いし。幼心に、歯医者さんは痛みと恐怖の象徴として刻み込まれました。
歯医者さんの待合室で毎回「ウォーリーをさがせ」の絵本を読んでいましたが、サワライの中でウォーリーは痛みと恐怖の化身です。今でもあの紅白ボーダーおじさんをみかけると、おしっこちびりそうになると言っても過言。


まあでも乳歯の虫歯なんてかわいいもので、ダメになったらポロポロと抜け落ちていって、新しくて丈夫な、白い大人の歯がサワライにもちゃんと生えました。
このことで変にちょっと気が大きくなったのがいけなかった。
中学、高校と歯科検診の頻度が低くなっていったのもあいまって、あまり歯医者さんに行かなくなりました。思春期的な、歯医者行くとかダセえんですけど感覚に陥っていた気がします。
すると冷たい飲み物が歯にしみるようになり、しぶしぶ歯医者に行ってだいぶ削るハメになる、という一番ダサい感じでした。「学習しねえなあ~自分は。。。」と後悔する気持ちだけが、回を重ねるごとに一丁前になっていきました。


ここで断っておきたいのですが、朝起きた時と夜寝る前にちゃんと歯は磨いていますよ!
たまに虫歯トークをすると、「ハミガキしないの?やばくない?」みたいな無遠慮な質問をいただきますが、ちゃんとしてんだよ!
ただ、ハミガキの才能が足りないのと、お菓子をよく食べる習性を考慮すると、毎食後ハミガキしないと追いつかない、という話なのかもなあ…。唾液の分泌の仕方もちょっと変えた方がいいのかな?ちょっと難しいかな?

「あんま歯磨かないけど虫歯にはなったことないよ」とかいう能天気な方もたまにいらっしゃいますが、自分には、どんなにハミガキを怠っても虫歯にならないタイプの人間の生活というものが、見当つかないのです。
虫歯と向き合っていかなければならない人生なのです。


大学に入ると歯科検診はなくなり、一人暮らしで歯の心配をしてくれる家族もいません。
いよいよサワライの虫歯ポテンシャルがここぞとばかりに荒れ狂い、気づいた時にはもう手遅れ。奥歯4本ほど神経を抜き、その他前歯など色々修繕しなければならない大工事へと発展して数か月歯医者に通いました。
費用もすごくかかったので、この時ばかりは本当に、もう二度とコイツら(自分の歯)のこと悲しませたりするもんか、この修繕された状態をしんでも維持してやると決意をあらたにしました。
数か月後に、初めて歯医者に自分から進んで定期健診を受けに行きました。糸ようじも買ってハミガキも狂ったようにゴシゴシがんばりました。

しかし、日常とは鈍感になるものです。
歯のことばかり考えて生活するわけにもいきません。就職活動は難航し、大学を卒業するときも論文に必死でした。雑事に追われ、ハミガキは気づかぬうちに微妙な手抜きフォームとなり、糸ようじもたまにしかしなくなりました。
歯医者さんでの定期健診にいたっては、大工事後のチェックの一回きりで、まったく継続できていませんでした。

 

そんなこんなで社会人1年目の冬、入った会社は歯科検診を実施してくれる恵まれた環境でした。
そしてサワライの口内環境は、虫歯が発見され、あまり恵まれた状況とは言えませんでした。


今日久々の歯医者さんに行って治療を受けてきました。
幸い虫歯は一本で、削って詰め物をしてもらって1日でフィニッシュでした。

が、そこは虫歯の申し子のサワライですから、一筋縄にはいきません。
親知らずが、あらぬ方向へ向かっている。今まさに頭角を現し始めようとしている。磨きにくいから虫歯になるのは目に見えている。というかもう、なりかけている。先生によると、若い今のうちに抜いてしまうのがいいと思う、とのことでした。

サワライは今まで親知らずを抜いたことがないので、ちょっと未知の領域です。
年明けの次回診察時までに猶予をもらいました。
さて、どうしたものか。。。

今までの、事なかれ主義のサワライだったら、わざわざ痛い思いをしてまで抜いたりしなくてもいいんじゃない?と言うところですが、ここは攻めの姿勢で、能動的に対処した方がいいのでは、と思っています。

だって、痛くなってから歯医者行くの、やっぱりダサい!
なす術もなく、診察台に横たわってただドリルで処刑されるのを待つ、あの時間はもうコリゴリです。
あとの祭り状態で歯医者に行くのは、もうこれっきりにしなくては。
これからは、定期健診で毎回「異常なし!」とほめてもらうためだけに歯医者に行く、そう決めました。


そのために、まずは、もう一切の虫歯因子を断ち切らなければなりません。
親知らずめ…。
いいだろう!受けてたってやる!


というわけで次週、決戦の幕開け!!
「サワライマモルと歯医者の受診part2」
この次も、ゼッタイみてくれよナッ!乞うご期待!

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31、師走でごわす

暦の上ではディセンバー、とは大好きな朝ドラ「あまちゃん」で登場した劇中歌の曲名ですが、あっというまに12月に突入、どころか過ぎ去ろうとしていますね。

「師走は忙しい、町は慌ただしい」と暦の上ではディセンバーの歌いだしにもあるように、年末のこの時期はクソ忙しいぜ、師も走り回って大忙しだぜ、そんなこんなで12月は師走って呼ぶんだぜ、というようなイメージが日本人の頭にはインプットされている気がします。

サワライもなんだか、会社から帰った後の疲れが、12月に入ってから増したような気でいたのですが、よくよく考えると「師走=忙しくて当たり前」みたいな先入観による思い込みなんじゃないかなとも思うんですよね。新入社員の力量不足なだけの話を、忙しぶるのもちょっと品がないな~、と。

まあでも、師走の言葉の由来が諸説あるように、年末が忙しい気がする原因も諸々あるのかな。やっぱり自分は悪くなくて、忙しいのは全部12月のせいかな。あーもうわからん。
とりあえず、あともうちょっと会社がんばって行って、なんとかささやかな冬休みへ逃げ込みたいところです。

 

今日は散髪に行ってきたのですが、そんな「師走あっという間ですよねトーク」のおかげで、美容師さんとの会話をどうにかこうにかつなげることができたので、「師走あっという間ですよねトーク」の無限の可能性を感じているサワライでございます。

何歳になっても、美容師さんとのフリートークは苦手なんですよね。
(以前に、散髪への思いをしたためた記事があるので、よかったらチェックしてみてください。↓)

sawaraimamoru.hatenablog.com

 

いつかきいたラジオで、「美容師さんとどういう話をしたらいいかわかりません」というリスナーからのお便りに対して、「ごきげんようみたいな、トークテーマの書かれたサイコロを持っていったら?」という回答がなされていて、画期的だな~と感心した覚えがあったのですが、いざ自分の身に置き換えてみると、さすがに実行する勇気が出ませんでした。
だって、おそらくめちゃくちゃウケるか、めちゃくちゃ引かれるかのどちらかですよね。
挑戦できたら最強にかっこいいけど、けっこうリスキー。。。

 

今日はなんとか、12月だけ使える「師走トーク」のクーポンのおかげで事なきを得たのですが、次回からの美容師さんとのトークにはまだまだ不安が残ります。
いや、別に担当の人は落ち着いた感じなので、たぶんそんなに焦る必要ないとは思うのですが、なんかこう相槌とか、天気の話に関して、気の利いたことの1つや2つ言うことができたらなあって、あこがれがあるんですよね。

「新しくできたララポートもう行かれました?」への正解はなんだったんだろう。。。行ってないです…で終わっちゃったけど、あそこもうちょっと話膨らませられたのかな。。。


ええい!こっちは金払っとんねん!強気でいこ強気で!
お客様は神様ちゃうんかい!?
責任者呼んでこい責任者!

なんて、口がさけても言えないそんな性格…。


自分らしい2015年、師走。
自分のペースでノロノロ走っております。

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30、カミングアウトボンバー2

今週のお題「今年見に行ってよかったもの」

~・~・~・~・~・~・~・~

昨日、生まれて初めて新宿二丁目のゲイバーに行ってきました。

 

内向的な25歳童貞ゲイのサワライは、ゲイ界の聖地・新宿二丁目にキラキラした・どこか近づきにくいイメージを勝手に持っていたので、これまで勇気が出ず訪れることができていませんでした。

そんな中ゆうべは思いがけない形で二丁目に突撃できてしまい、わいわいなんだか楽しい気分で、ふわふわと家に帰って、気づいたらすやすやと眠っていました。
いま、一日経ってからようやく、「なんだ、二丁目、行けたじゃん!」とじわじわと実感がわいてきたので、記録しておこうと思います。

 

今年はサワライにとって変化の年でした。
就職に伴ない新天地・東京に移り住み、ゲイとしてちょっとでも誰かと交流をしようと、このブログを立ち上げました。
そしたら本当に少しずつではありますが、サワライのブログを読んでくださる方ができたり、同じようにブログを書くゲイの友達ができたり、あと夏には、同じ会社のゲイの先輩と出会って初めてのカミングアウトをしたりしました。
(↓詳しくはこちらの記事参照)

sawaraimamoru.hatenablog.com


内気なサワライにしては上出来の2015年だな~とか呑気に思っていたのですが、ここにきてまさか二丁目まで行けてしまうとは。

昨日は新宿で大学時代の友達と、約半年ぶりの飲み会でした。
重度の人見知り・人嫌いを患っているので、友達が少ないのですが、その分だけ少数精鋭の素敵な友達がサワライにはいるのです。


じゃあ大学時代に打ち明けとけよ、って思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはビビリのサワライ。嫌われるのが怖くて、ゲイなんだということをずっと言えずに、気づいたら就職してたんですよね。

 

ほら~、私ってぇ~、真面目だけが取り柄みたいなところあるじゃないですかぁ~?


男が男を好きになるなんて不自然だから、言わない方がいいんだって、誰よりも常識にとらわれていました。
真面目に勉強してきた頭を使って、嘘でみんなを誤魔化すことが、できてしまったんです。
そのくせ、みんなの前では面白いことで笑っていたいもんだから、ひょうきんな自分が強みだと信じて、ちょっと深い恋バナみたいなものを避けて避けて、ここまで来たんです。来れてしまったんです。


でも、いざ会社員になって、大人として、いろんな人とまた自己紹介から始めましょうってしてみたら、そうやってゲイじゃないって嘘をつくことの方がよっぽど不自然だということに気づきました。
これは別に、ゲイを隠す生き方を否定しているわけではなく、少なくとも自分には難しいことだと思ったんです。会社の同期とも、いまだにうまく溶け込めていない気がするし。


入社した後、少し経ってからその大学時代の友達(関東勤務組)と会った時も、ノンケ(ゲイでない異性愛者のこと)のふりして会話をしていると、つらかった。友達に嘘をつくことは、自分には向いていない。たぶん、うまく笑えていない、そんな気がしました。

そうして今年の間はしばらく大学時代の友達とはあまり会わなくて、なんとなく連絡もとらずに、距離があいていたんです。

 

そんな流れで、夏の終わりのカミングアウトボンバー1。
会社のゲイの先輩に出会って、号泣しながらやっと初めて人に自分がゲイですと伝えることができました。


味方をいっぱい作ればいいんだ。そうやってゆっくり始めていけばいいんだと、そう思えました。


上の記事でも書いたのですが、この時は本当に取り乱して、泣いて泣いて、人にゲイだと打ち明けることが自分はすごく苦手なんだと思って100%スッキリというわけにはいかなかったんです。こんなカミングアウトするたびに精神グラグラにゆれんのか…疲れるだろ…先が思いやられる…みたいな。いや、カミングアウトできたこと自体は本当に奇跡で嬉しかったんですけどね。

 

そんなこんなパンナコッタで、みんなに連絡とろうかどうしようか、モジモジ迷っているところに向こうから関東組忘年会をしようというお誘いが!

これは、これは、もう、やっちまうしかない!もう、泣きながらでもなんでもいいから、自分をさらけ出して、ありのままで、レリゴーで、松たか子でいくしかない!

そうして臨んだ昨夜の飲み会。
みんなお互い久しぶり状態で、最近どうなの~で、やっぱり見知ったテンションですごく楽しく心地いい。

 

そんな中サワライは内心ドキドキですよ。

いつ言おうか。いきなり言い出しても唐突だし。てか多分また泣いちゃうだろうけど、だいぶ重い空気になるだろな…どうしよう。てかてか、案外このまま何もなく終わっちゃう…?だとしたら次いつ会えるのかわかんないしそれはダメだ!じゃあいつ言うの?今でしょ!衛星ハイスクール、高校時代にお世話になりました!


とか脳内劇場が繰り広げられる中、友達のうちひとりが
「てかマモル彼女できたん?」
と聞いてきました!

 

待ってましたーーーー!!!

と思って、これを逃すもんかあ!と思って、
いつもなら自分の話題からそらすためにモジモジして誤魔化すところを今回は、
いつもの372倍クネクネしながら、

「あの~、その、、、実はみんなに相談したいことがあってぇ。。。」

とゴニョゴニョ、男性が恋愛対象で、最近がんばろうと思ってて、でもどうアクションを起こしていいのかわかっていなくて、だからみんなにたまに話し相手になってほしいんだということをなんとか精いっぱい伝えることができました。

もう不自然に嘘をつくことはやめにして、みんなと自然に恋バナがしたいんだよ、って言えました。

 

そしたら、みんなが、

「えーーーーーーーーーー!!!!!
じゃあ今から二丁目に行ってみんなで相談しに行こう!!!」

って言い出して、

えーーーーーーーーー!!!!??????
ってなりました。
今から?みたいな。

「だってオレらもよくわからんことばっかりやし、聞きに行った方がはやない???」
って言ってくれました。

いや、せやけども!
せやかて工藤!(名探偵コナンより)
てかいいの?おれは、いいの?みたいな。


なんか、もう、まったく普通に受け入れてくれました。
みんな、「変わらずに好きだよ」って言ってくれました。
「言ってくれてうれしいよ」的なことまで言ってくれてたかな?なんかもう有頂天で記憶が定かではないですが、たぶん本当に一生分の大好きを言ってもらっちゃった気がします。
女性陣からめっちゃハグしてもらって、男性陣からズルい!と言われる構図が滑稽で、幸せで、幸せすぎて、私こういう時どんな風に笑えばいいかわかんない、みたいな、綾波レイ状態でした。

 

なんか、とにかくワイワイ騒いで、涙を流すヒマがありませんでした。
泣かなくても、言えるようになったんだ。
進歩しすぎてこわい!
ウソっ、私の躍進、すごすぎッ…!?

 

ということで新宿在住のベンチャー君が行ったことがあるというゲイバーにみんなで連れて行ってもらって、ワイワイ楽しんでしまいました。

対応してくれたお兄さんが毎分5ボケぐらいの頻度でかまして爆笑をかっさらいながら、サワライのことを親身になって話も聞いてくれ、「アンタは出会い系とかよりゲイバーに行ったりして交友関係を広げる感じがいい」とアドバイスまでいただきました。

どうやらゲイバーにはざっくりと2種類あって、1つはゲイの出会いが優先の、ゲイ以外入れないお店と、もう1つはノンケの男女も入れる観光目的のお店があるとのこと。
今回入ったお店は後者で、そういうお店に何回か行って徐々に慣れていく方がいいよ、というものすごく具体的な助言が本当にありがたかったです。
加えてその場でみんなが「一緒についてくから!」と口をそろえて言ってくれて、ボトルもちゃっかりキープして、また来る約束をしてフィナーレとなりました。

「アドバイスはたしかに的確だったけど、向こうはあくまで水商売なんだから、あたしが絶対一緒についてくからね。ぼったくりとか絶対あわせないようにしてあげるから」という男前なことを言ってくれる子もいて、つくづく心強すぎる友達に恵まれたな、と思いました。

 

昨日はゲイバーに行けたことも画期的だったけど、頼もしい味方がいっぱいできたことが本当に本当にうれしくて、すごくよかったです。

 


嬉しすぎて、いつも長いブログが余計に長文になってしまいました。


カミングアウトはどんどんするべき!とか言うつもりはありません。
実際サワライもず~っと長らく慎重に自分のことを守ってきましたし。

ただ、自分の思考だけで抱え込むより、時には別の誰かに頼ってみると、本当に予想外の展開になるんだという発見がとても衝撃的でした。


みんなで二丁目に行けてよかったな~という話。


12月だけど、ゆうべは少しも寒くなかったな。
The cold never bothered me anyway.

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29、今年の感想文、今年のうちに

今週のお題「年内にやっておきたいこと」

~・~・~・~・~・~・~・~
せっかくブログをやっているんだから、読んだ本の感想を記録しておきたい、と前々から思っていた。

しかし、感想を書きたくなるほど素敵な本に対して、自分のとっ散らかった残念な文章をあてがうのもいかがなものか…ていうかちゃんと感想文書くのはめんどくさいし…などと言い訳をしては先延ばしにしてきた。

そんなところに出会った、「これは何が何でも感想を書かなくては!」と思った一冊の本。加えて今週のお題「年内にやり残したこと」。

sawaraimamoru.hatenablog.com

昔から感想文苦手なんだけど最近読書にハマっていて~、とブログに書いたばかりだし、ちょっと挑戦してみようかな!

~・~・~・~・~・~・~・~
読んだ本:
「名前も呼べない」
伊藤朱里 著
筑摩書房

www.amazon.co.jp

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世間の常識を、うっとうしく感じることがよくある。

「会社員になったからには、早く結婚して子どもを作るべき」だとか、
「彼女がいない男は合コンに行きたいはず」だとか、
多くの男性が分かち合う価値観を、ゲイである私は共有できない。

もちろんゲイでないストレートの人が結婚をプレッシャーに感じることもあるだろう。「料理のできない女はダメ」とか「男は泣くな」なんて古いタイプの考えもまだまだ根強かったりして、多くの人が、世の常識に息苦しさを覚える場面に出くわすと思う。

そういう時私は、自分だけが黙ってこのモヤモヤを飲み込めば、その場は何事もなく済むのだからと、周りに調子を合わせてしまう。口には出さないけど、気にしていないわけじゃない。すると少しずつ心の中に何かが沈殿していき、一定量が積もってからやっと、それはハッキリとつらい感情になる。


「名前も呼べない」の主人公・恵那も、周囲の当たり前に疑問を感じつつ、曖昧に笑って誤魔化すことに精いっぱいだ。
社交的ではないが、元職場の暗黙のルールには律儀に則って女子会を主催し、退職者へのプレゼントの用意なんかもしっかりとこなしてきた。自分が見送られる側になった最後の女子会でも、周知のサプライズプレゼント演出にきっちり対応し、ためらいながら流行りの入浴剤を受け取る。湯舟に浸かる習慣がないのに、冗談でも口に出せない。そんな彼女に、私は好感を持った。

最後の女子会で、恵那は、恋人に二人目の子供が生まれたことを知る。
契約社員として入社してすぐ、どちらからともなく始まった不倫関係だったが、次第に連絡は途絶えがちになり、二年半の期間満了の頃にはふっつり会う機会もなくなっていた。
三か月の間を置いて開催された送別女子会で間接的に知ることになったその事実を、恋人にメールで確かめ、ようやく終わりを意識した。

自分のことなのに、どこか他人事のような恵那の代わりに、機関銃のごとく怒りを表現するのは、彼女の唯一の親友・メリッサだ。典型的なゴスロリファッションで女装をする、その男声の持ち主に対してだけ、恵那は弱音を吐くことができる。

 

「最初からやんなければよかったって言われたら、その通りなんだけどね」
*****
本来なら、私のほうが拒むべきだったのだろう。
でも、あの人が私の前でだけ、仮面を脱ぐとまではいかなくても、ぴったりとその顔を覆う、家庭人とか職業人とか、様々なレッテルの隙間から一瞬だけ素顔を覗かせ、息をついて、またあるべき所に戻っていく、その様子を見ると、単純に世間体を気にして拒否するのが正しいとは、どうしても思えなかった。
少し休んでもらう役割をしたいと、それでいいと思っていた。あの人の帰る場所を壊したり、邪魔をしたりする気にはなれなかった。むしろ応援しているような気持ちでいた。
*****
「ねえ、私、どうしたらよかったんだろう?」

 

そんな恵那の心からの問いかけに、答えなんてあるのだろうか。
「いるだけでずーっと説明を求められる」から言語化が得意な頭のいいメリッサでも、答えてくれなかった場面が印象に残る。

 

料理をしない恵那の住まいの、ほとんど何もない流しの下には、梅酒の浸かった大きな瓶がある。琥珀色の液体から小さな球体が息苦しげに青い肌を覗かせているという描写が、不気味なのに美しいと思う。
距離ができていく直前に、恋人の指導のもと一緒に作った。
「最低でも一年は寝かせないと」と言う恋人に「待ちきれない」と言いながらも、一年は一緒にいてくれるつもりなのだと信じた恵那。そして今も信じたがっている自分に苦笑する恵那は、とても健気で、危うい。
その恋人の残していった梅酒の大瓶を、時折引っ張り出しては中身をのぞき込む。すると、まるで預言者が水晶玉に未来を見出すように、恋人の家庭の様子が、瓶の中で幻の像を結ぶのだ。

琥珀色の中に映るのは元職場の宝田主任と、妻の亮子さんの家。実は他ならぬ宝田主任の紹介で亮子さんのピアノ教室に通っていた恵那は、二人の家に行ったことすらあるのに、淡々と客観的に梅酒の瓶を眺める。
そんな恵那がクライマックスにかけて、感情をむき出しにしていく過程が、すごい熱量で書かれていく。
自己中心的な、そこらへんの愛人にはなりたくないと言っていた恵那が、恋人に電話で思いの丈をぶちまけるラストに、私は解放を感じた。

 

常識ってなんだろう?
○○してはいけない、とか、○○なはずだ、とか、なんだろう?
「ねえ、私、どうしたらよかったんだろう?」


たぶん、答えはない。
でも、私は最後に、恵那が進み始める微かな希望が見えた気がする。
「あんな一生涯が砕け散るような遣り取りがあっても、充電は爆発したり磨り減ったりなくなったりはせず、減る分は減って残る分は残るのだ。」

 

大丈夫。まだもうちょっと、進んでみよう。

 


~・~・~・~・~・~・~・~
「何者」など、価値観のどんでん返しが得意な朝井リョウさんオススメということで、手にとってみた第31回太宰治賞受賞作。上記のように長々と書いてしまいましたが、この本には大きな仕掛けがあって、実際に本を読まなきゃ絶対に味わえないので、是非読んでみてほしい!!飛び出す絵本とか、そういう仕掛けじゃないよ!とにかく読んでくれ!伊藤さんは朝井加藤オールナイトニッポンパトロンということで、個人的に目が離せない!

28、焼き芋屋はなぜ潰れないのか?

「い~しや~♪きぃも~♪…おいもっ♪」
寒さが厳しい夜、どこからともなく聞こえてくるひょうきんな音色。
焼き芋屋さんの軽トラックから流れてくるこのメロディーは、日本の冬の風物詩ですよね。


残業を終えトボトボ歩いていたら、石焼き芋のフレーズが遠くでボンヤリ聞こえました。
は~、もうそんな季節か。明日から12月だもんな…。どうりでこんなに寒いわけだ…。
と、背中を丸めてコートの襟もとを正しました。
そして、それまでの考え事に再び集中するサワライ。

どう控えめに考えても会社の忘年会行きたくない…なんとかして仮病を…いや、根が真面目な自分に仮病はハードルが高い…ガチで風邪ひく方法は…こういう時だけ元気なんだよな…季節の変わり目は絶対風邪ひくのに、真冬にはひかないのなんでだろ~…昆布が…海の中で…だしが出ないの…なんでだろ……

とその時。脳内テツandトモが発動した、まさにその時。

曲がり角から突然軽トラックが飛び出してきたではありませんか!

いや正確には、サワライの最低な運動神経と考え事でボ~っとしていたことにより、目の前を横切った軽トラックを脳が遅れて認識したのです。
が、不思議と身の危険はまったく感じませんでした。
超低速で徐行する、焼き芋屋さんの軽トラックだったからです。
遠くでなんとなく聞こえるように感じていた石焼き芋の歌はすぐそこまで来ていたのです。


実はサワライ、焼き芋屋さんをこの目でちゃんと見たのが人生で初めてでした。
小さい頃から家の近所でさんざん焼き芋メロディーは聞いてきたのですが、品行方正なサワライは夜遅くに外を出歩くようなマネは決してしなかったのです。ていうか冬の夜とかさみーし外でねえよ!


そんなこんなで初対面の焼き芋軽トラに急激に興奮したのですが、あれ、これってどうやって買うの?おじさん走行中だよ?おれも並走すればいいのかな?徐行といっても車についていくの大変だよ?サワライ運動音痴だよ?走りながら財布の中の小銭探そうとしたら100%ころぶよ?いや、冷静になれ、おじさんだって車降りて芋とるんだから車停めるだろ。そうだ、車とめなきゃ。え、タクシーみたいな感じ?ヘイ、タクシー、みたいな?ヘイ、ヤキイモ!みたいな?え恥ずかしくない?それ恥ずかしくない?てか夕飯前だよ?芋、腹にたまるよ?いやもうなんなら芋だけで…


とか考えているうちに、あっという間に焼き芋トラックはサワライを追い越し、闇夜に消えていってしまいました。


サワライはくやしくてたまりません。
何も考えずに脊髄反射で「焼き芋くださーい!」と叫べばよかった…。後悔。

そして同時にとても不思議です。
どこに出没するかもわからない焼き芋屋さんが、出会えても突然のことだとアタフタしてしまう焼き芋屋さんが、夕食時に腹を余分に膨らませてしまいかねない芋を売る焼き芋屋さんが、なぜ潰れないのか?

 

今日もどこかで聞こえる、ちょっぴり不気味なメロディー。
「い~しや~♪きぃも~♪…おいもっ♪」

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27、本棚は未完成

読書が趣味だということを、うまく伝えられるようになりたい。

社会人になると、たいして仲良くもない人から「趣味はなんですか?」と聞かれる場面が増えるので、余計にそう思います。

会社でのかしこまった姿とは別の、もうちょっとくだけた、その人の素顔へのヒントが趣味に秘められているはずだ、という意味での問いかけなのでしょうが、これがなかなか難しい。

スポーツ、アウトドア=明るい性格\(^0^)/
読書、インドア=暗い性格m(_ _)m
みたいな、なんとなくの判断基準が蔓延していて、インドアまっしぐらなサワライは趣味トークにいつも苦戦してしまいます。

もちろん世の中そんな単純じゃないし、世間の人がそんな捉え方ばかりするわけじゃないことはわかっていますが、どうにも卑屈に答えてしまうんですよね。
どうせスポーツが偉いって話になるんでしょ?たまには外に出なきゃとか言うんでしょ?みたいな。

いやまあ自分が暗い性格なことは百も承知ですが、自分の暗い性格について明るく語れるようになりたいなあと思うのです。だって好きなことがあるって、とてもいいことのはずですもん。

 

だから、読書が趣味だということをブログにひっそりムッツリ書き記しておこうと思います!陰気だと言われようが気にしないぞ!


といっても昔からいっぱい読んできたとか、月に何十冊も読むとかそういうハイレベルな感じではないので、お手柔らかに願います。

小さい頃は漫画しか読んでいませんでした。読書感想文とか死ぬほど苦手だったし。
大学時代に暇な時間に小説を読むようになって、ハマったんです。
仲のよかった友達がごく自然に文庫本を講義中に読んでいて、なんか新鮮に感じたんですよね。講義サボってるのに、本読んでるのって、すごい!といったところでしょうか。
それになんとなく、くやしさを覚えました。おれだって本くらい読めるし!という感じでスタートしました。そしていつのまにか、漫画にはない本の魅力を発見してしまったんですよね。


本の、自分の想像力によって情景描写がいかようにも膨らむ、ってところが漫画との違いだと思います。

変な話、少女漫画のイケメンよりも、活字から自分が想像したイケメンの方が自分のいいように洗練されたビジュアルで話が進むから、すごい脳みそへの刺激が強い気がするんです。

漫画は漫画で、絵を楽しむ要素とかコマ割りとかテンポ感とか漫画ならではの良さがまた無限にあるから今でも読みますが、本の魅力の発見が自分の中でけっこう衝撃でした。

もっと小さい頃から読書習慣を身につけておけばよかった…と少し後悔しかけましたが、20年以上生きてようやく自分なりの妄想力が育って、読書が楽しめるようになったのかもな、と変に納得もしています。

なんか、こんなに読書を語るのってすごく偉そうだな…。
まぁでも!所詮趣味ですしねえ?
好き勝手満足げに語らしてください。


学生時代は古本屋で文庫本を買うことが多かったけど、社会人になって、ハードカバーの最新刊を気軽に買えるようになったことがすごく嬉しいです。
きれいでゴージャスな装丁を眺めるのもいいし、多種多様な背表紙が整然と並んでいる棚はすごくかっこいい。

電子書籍がどんどん普及するこのご時世ではありますが、サワライは完全に紙派です。
こう、なんというか、圧倒的な物質感がたまらないです。所有欲を満たすことができるというか。電子ファイルの名前の羅列を見ただけでは味わえないでしょう?
自分の部屋の本棚に並ぶ大好きな本たち。
「自分の好きな本」という共通項だけで結び付けられていく本棚は、世界中の本屋を探したって見つからないのです。


日曜にアマゾンで新しい本棚を買いました。
安くて小さいサイズのものですが、まだまだスカスカです。
今年買ったハードカバーの新刊が数冊、少し頼りない感じで並ぶこの本棚は、まったく未完成です。
これからどんな本棚にしていこうか。本当に楽しみです。

 

~・~・~・~・~・~・~
サワライの趣味、ですか?
そ~ぅですねえ、色々あるんですけど…
まあ?しいて言えば?
自分だけの、、、本棚を?
世界に一つだけの本棚を?
ゆっくり…作っていくこと。
ですかね!

インドア最高!

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26、イチかバチか

今週のお題「今年買って良かったモノ」

~・~・~・~・~・~・~・~

服屋でいい買い物をするのって、難しい。

 

値段の高いものを買えばいいっていう単純なものではないし、安く買えても頼りない材質はイヤだ。

タンスの中の手持ちのアイテムと、なるべく多く組み合わせられる方がいいけど、あんまり地味すぎるのも買う甲斐がない。

MサイズとLサイズ、ゆったりめに着るかピッタリめに着るか…それが問題だ…。

 

いろんな要素を考慮して、じっくり品定めをしたいのに、だいたいの店員は馴れ馴れしくしゃべりかけてくる。

人見知りな私は、冷静に買い物をこなすことができない。

 

値札もなぜか服の中の方に隠してあるトラップが多く仕掛けられており、モタモタ値札を探しているうちに店員さんに見つかってしまう、みたいな感じ本当につらい。

別に万引きしてるわけじゃないんだからあんなコソコソしなくてもいいのだろうけど、なぜか悪いことをしてる気分になるんだよな…。あれなんなんだ…。

 

そうして捕まった店員さんのお世辞トークの処理に困惑しながら、いつもイチかバチか、買うしかない!早く買っちまって解放されたい!というようなノリで買っている。およそ半分の確率で、家に帰った後に「なんでこれ買ったんだろ。。。」という気持ちになる。

 

 

そういうわけで私にとって洋服の買い物は、ギャンブルに近い。

しかしそれだけ、思いがけずお気に入りのアイテムを購入できていた時には、喜びもひとしおなのだ。

 

 

 

今年、一番買ってよかったな~と思うものは、先月買った黒い革ジャンだ。

なんだか最先端の界隈では「ライダース」と呼ぶ向きもあるみたいだが、おしゃれに不慣れな私が買ったのだからあくまで「革ジャン」だ。

 

数年前に買った1万円くらいの革ジャンもどきを愛用していたのだが、その合皮素材が去年ついにボロボロと崩壊を始めてしまい、今年は本革の、ちゃんとしたヤツを買ってみたいと息巻いていた。

 

とはいえ、いい革ジャンを買おうとすると、値段に際限がないという。

そんなに高いものは買えないから、本当に慎重にこの買い物は成功させたいと思った。

 

そうして挑んだ新宿のルミネは、さながらRPGダンジョンだった。

次々に襲い掛かってくる店員モンスターをかわしにかわして、なるべくお手頃価格な、なるべくいい材質の、なるべくかっこよくて、なるべくシンプルな革ジャンをさがした。

店員の目を盗んで値札をさり気なく読み取るスキルだけがどんどん向上していった。

あの値札を抜き出す手さばきは、万引きGメンも真っ青だったと思う。

(※決して万引きはしていないし、万引きをしようともしておりません)

 

数店舗を渡り歩き、神に導かれた最後の店で、その革ジャンと出会った。

艶のある上品な黒、装飾の少ないスッキリとしたデザイン、それでいて確かに主張するその存在感。申し分のないルックスだった。

店員さんもわりと控えめな接客で、興味に満ちた私がその革ジャンを手にしてやっと、「それ本革なんですけど、3万しないんですよ?(微笑)」とふんわり語りかけてくれた。

 

う、3万か…でも出せない金額じゃない…これは…

「あの、着てみてもいいですか?」

 

値段の相場とかはわからない。材質も、どのくらいの品質なのか正確なことはよくわからない。でも。

革ジャンを着てちょっぴり大人に映る、鏡の中のこの自分になりたい、と思った。

3万払って、なりたい。そう思えた。

 

いつもとはちょっと質の違う興奮の中、私は支払いを終え、家路についた。

 

 

 

あれからひとつき経って、何回か着たのだけど、やっぱりいい。

シンプルなデザインがすごく気に入っている。

店員さんが本革というだけあって、なんかしっかりしてる気がするし。

この、「気がする」のが重要。

う~ん、いい買い物をしたなあ。

 

 

たまにこうやって「勝つ」から、服屋のギャンブルはやめられない。