~本~ ●「アンソーシャル・ディスタンス」(金原ひとみ ) くらくらするくらいによかった短編小説集。コロナ禍の世間の温度感をいち早く作品に落とし込んだ表題作もすばらしかったが、なにより「ストロングゼロ 」の章がよすぎた。 仕事のあいま、退勤後、眠る前、生活のすき間をストロングゼロ の強いアルコールで麻痺させるのが癖になっている主人公。アルコールへの依存はエス カレートしていき、コンビニのアイスコーヒー用の氷だけ入ったプラカップ にストロングゼロ を注げば業務中も酒が飲めるじゃん!あたし天才!と気づくところとか最高。客観的には、崩れていく過程に見えるのだけど、テンポよくユーモアが織り込まれた文章に運ばれていくのが気持ちよくてしょうがなかった。ラストのオチも含めて、最近読んだものの中でベストに面白かった。
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●「正欲」(朝井リョウ ) 世間に流通する耳障りのいい「多様性」という言葉に、うっとりして理解を示せた気になってしまう場面って、ありませんか??という問い直し。 そして、さらに一歩踏み込んで、逆にマイノリティ側も思考停止になって、マジョリティ側の事情なども考えずに一方的な拒絶、してない??とハッとさせられる。 二項対立に収まらない、人間を見つめる眼差しが朝井リョウ ~最高~、となる大作だった。
「恋愛関係に限らず、誰か他人と暮らすことは自分の命を引き延ばす重要な機能を果たしうる」ということが提示される流れが個人的に好きだった。大好きな能町みね子 さんの「結婚の奴」じゃん!!!という感動。性愛で結ばれているかどうかに関わらず、誰かに自分の性的指向 や生き方の信条を開示することができ、語り合える関係性が築けたら、それは本当に尊く、意味のあることだもんね。
今ある友人関係を大切にしたいと思えた。これから先の人間関係の構築への不安も、もうちょっと肩の力を抜いて考えてもいいのかも。 不穏な底知れなさのイメージが先行する本作かもしれないけど、僕は希望をもらいました。
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●「海をあげる」(上間陽子) 作品自体は2020年出版だけど、自分は2021年6月ごろに読んで衝撃を受けたので、ここに記しておきたい。前作の、沖縄の10代・20代の女性の生活のままならなさをインタビューで追った「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」と同じ、他者の話を上間さんがまとめた本かと思っていたら違った。上間さん本人の経験に基づくエッセイ。
米軍基地の問題など、日本がすみに追いやっている問題を押し付けられている沖縄、という構図。 自分が本州で暮らす上で、メディアで取り上げられても意識のすみですぐ忘れてしまい、実感を持って捉えられていなかった問題がいくつもある。沖縄で暮らす人々は、その問題と隣り合わせでずっと暮らし続けている。ふりそそぐ軍用機の騒音も、海へ投入された土砂も、すべて、現実の人を苦しませ続けているのだと再認識した。刻み込まねば、と思った。
「海をあげる」という上間さんの言葉を、しっかりと胸に刻んで、自分も苦しみながらでも、少しずつでも、知り続ける必要があるのだ。
こないだ11月にあった「2021年ノンフィクション本大賞」での上間さんの受賞スピーチも含めて、すごかった。
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~映画~ ●「ドライブ・マイ・カー」 映像の力に見入って3時間という長丁場があっという間だったから、本当にびっくりした。 ベッドで抱き合う二人の、互いに見えない顔が暗闇に埋もれ、不穏な虚無をまとうところ。 車のオープンルーフから突き出した二人の煙草のけむり。 雪道に現れる車のハッとする赤。 演劇の舞台を多言語の話者が入り乱れる形で進行するという作中劇もおもしろかった。韓国式手話を操る女性がいい。言語を超えた意思の疎通が、確かに存在すると信じられる。あと岡田将生 の虚無顔。
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●「あのこは貴族」 地方と東京という題材は、ついつい色んな感情を上乗せしてしまう。 対照的な二人の女性を描きながら、共通する生きづらさ(=男性優位社会に翻弄される経験)をクロスさせ、完全な共感には至らないまでも、お互いの存在を尊重し、肯定し合えるという優しい世界が提示されていてよかった。 恋愛をゴールとしない姿勢はもちろんだし、「恋愛を中心に考え一人の男を取り合って女同士が分断させられる従来にありがちな構図」、を明確に拒否する宣言があったのもよかった。
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●「パーフェクト・ケア」 資産のある老人をターゲットに、巧みに施設に入所させて親族も近づけないよう司法から手を回し、本人の預かり知らぬところで家や家財道具を売り捌いたり手数料をせしめて儲ける悪徳・後見人ビジネス。認知症 の兆候を、グルになる医師に大げさに診断させて、州の裁判所命令により本人の有無を言わさずに施設に閉じ込めていく手法が鮮やかすぎて恐ろしかった。 悪事に手を染めて大金を稼ぎ、強欲なアメリ カンドリームを叶えるのは、女であったっていい。オーシャンズ8 に通じる痛快さがあった。
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~ドラマ~ ●「大豆田とわ子と三人の元夫」(Netflix でも観られる)坂元裕二 脚本の最強おしゃれ令和トレンディードラマ。 絵もきれいだし、音楽もオシャだし、会話がおもろいし、理屈っぽい人間とか、生きづらそうにしている人間を肯定してくれる感が心地いいんですよ~、と整体のアニメ好きなお兄さんに説明したところ、「へぇ~」と言ってまったく響いていない様子だったのもいい思い出。松たか子 を好きなお友達が、調べ学習をして解説してくれたエピも含めてベスト。 坂本裕二さんは、松たか子 のデビュー・シングル「明日、春が来たら 」の作詞を手掛けていたという事実を知り、驚いた。ヤマザキ パンといい、キムタクとの共演歴といい、松たか子 は継続的なパートナーシップに秀でた人物である、とのこと。
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●「ボーイフレンド」(Netflix 、アマプラとも配信あり) 2019年とかの韓国ドラマなのだけど、私の2021年1月~3月は完全にこの「ボーイフレンド」に支えられた。求職活動に疲れた心を主演のイケメン韓流スター、パク・ボゴムさんにどれだけ癒やしてもらったか。おかげさまで4月から新しい仕事を始めることができ、この年末現在で続いております。 政治や財閥のしがらみに心を閉ざし気味だった女社長。キューバ の旅先で出会った、互いに身元も知らない青年と韓国に戻って運命の再会を果たしたと思ったら、自分の会社の新入社員だった!?若い彼が、財閥を恐れずにガンガンアプローチしてくる夢のシチュエーションを、がっつり楽しませていただきました。 夏に日本公開された映画「SEOBOK/ソボク」のパク・ボゴム×コン・ユ共演もよかった。
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●「Dead to Me」(Netflix 配信) お友達に教えてもらった「負けへんで」サスペンスドラマ。ジェーン・スー と堀井美香 の「OVER THE SUN」というPodcast 番組は2020年からずっとハマって聞いているのだけど、どうにも中年女性2人コンビはおもしろい。昔好きだった「デスパレートな妻たち 」っぽさもあり、よかった。シーズン3の配信が待たれる。
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~音楽~ ●藤井風「きらり」 天性の才能が輝く歌声の人は、しゃべり声がぼそぼそと岡山弁で・・・と、選ばれし者感が強すぎる。興味が尽きない、藤井風って。「きらり」はさわやかで好きだった。
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●山崎育三郎「僕のヒロインになってくれませんか? feat.3時のヒロイン 」 我らがミュージカルスター・いくさぶが3時のヒロイン とコラボされているのを年末のFNS歌謡祭で見つけて、見入ってしまった。古きよきアメリ カンなテイストと、3時のヒロイン の雰囲気が最強にマッチしており、とてもよい。
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●ゆっきゅん「DIVA ME」 「止めないで自我」とか「選択肢増やせ 白湯もDIVA」とか「急な代引きは払えない」とか、ことごとくいい。 本当に、こういうDIVA的発露を無意識のうちにあきらめてきた男の子たちがこの日本、この世界にどれだけいたことだろう。自分を含めて。それって、とてつもない機会の損失だったと思う。 それだけ、2021年にゆっきゅんが発信するDIVAの意義があるってもんだし、こうやって輝きを放てるに至る逸材という貴重さに圧倒される。ジュエルだ。今後、注目していきたい。
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~配信~ ●IZ*ONE解散コンサート「IZ*ONE ONLINE CONCERT [ONE, THE STORY] 」 ひそかに2020年の年末からIZ*ONEに激ハマりしていたのだけど、もともとのデビュー時の活動期限により、2021/3/14の配信ライブを最後に解散とのことで、残念だった。コロナ禍の影響で、後半だいぶ活動が制限されることにもなっていたので、そこも特に。 「Panorama」という曲が本当によくて、これにも求職活動を支えてもらった。チェ・イェナがかっこいい。というか12人全員いい。かっこいい。
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●「漠とした3名」 エッセイスト・能町みね子 、コラムニスト・ジェーン・スー 、ブロガー・phaの三人によるトーク イベントが、とてもおもしろかった。書く仕事をする三人の、三者 三様の生き方とものの考え方。言葉を尽くして、どうなんだろうね、と知恵を出し合う様子がいい。定期イベントになっていくようなので、今後も三人の語りを追っていきたい。
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●「バラ色会議 第28夜~読書の秋!タレント本ナイト~」(@オンライン配信) 前述のゆっきゅんと、小説家でハロオタの柚木麻子さんとのトーク イベントが二人ともフルスロットルでめっちゃおもしろかった。 女性タレントのライフスタイルフォトブックは以前から、朝井リョウ さんがラジオで語っておられて気になる存在だった。その素敵なラインナップを、ゆっきゅんと柚木さんが深い愛情で語っていて、とてもおもしろかった。 柚木さんが、「一見家父長制と相性が良さそうな、明るくて元気な女性タレントが、芸能人の男性と結婚して幸せな家庭を築く。女の子たちのあこがれ!と出版社が祭り上げてきたそんな女性タレントたちは、その後、離婚したり自分のビジネスで成功したりして個人で名前を上げて、結果として家父長制のクラッシャーとなっていきがち」という考察をしていて面白かった。そこが魅力なのか!と。木下優樹菜 、益若つばさ 、などの話。最高。 あいのりの桃の話も出ていてよかった。マシュー南 も出てきて最高。ともさかりえ は19歳になりたい。
rooftop1976.com
~展示~ ●「ルール?展」(@21_21 DESIGN SIGHT) ディレクターチームにアーティストだけでなく法学者の方が名前を連ねていたりする展示会で、生活の中には意識していないルールがいくつも存在しているよね、人間は無意識のうちにこんなにもたくさんのルールに基づいて動いているんだね、という発見ができる作りになっていて、おもしろかった。
遠藤麻衣さんの「アイアム・ノット・フェミニスト !2017/2021」という作品がよかった。 ゲイのカメラマンの森栄喜 さんとの対話から生まれたという展示。同性婚 の実現さえ全然できていない日本の情けない現状をふまえて、性愛関係でない、友情に基づいた婚姻契約書を遠藤さんと森さんが書いた紙が展示されていた。よその家族に、関係のない人が一緒に映り込んで家族写真を撮る、みたいな森さんの作品を以前から知っていたので、思わぬ出会いに胸が熱くなった。これも完全に能町みね子 の「結婚の奴」じゃん!と思って、嬉しくなった。 「結婚の奴」式の性愛によらないパートナー探しのマッチングアプリ が近い将来登場するはず、という大胆予想をする。けっこうおもしろいと思う。
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●「イスラエル 博物館所蔵 印象派 ・光の系譜 ―モネ、ルノワール 、ゴッホ 、ゴーガン」(@三菱一号館美術館 ) わかりやすく海外の名画!と味わえる印象派 のぼんやりした絵は、遠目から見た方が全体像が把握しやすい。会場は予約制にも関わらずけっこう混んでいたけど、人の列の後ろからささっとカジュアルに軽率に楽しんできた。年の瀬は、三菱一号館美術館 の展示を楽しんで適当にご飯屋さんで一人打ち上げする、みたいなのが恒例行事になってきている。 有名どころの画家の絵もよかったけど、レッサー・ユリィという人の「風景」、「夜のポツダム 広場」という絵がとてつもなくよかった。なんだか見入ってしまった。好き。
mimt.jp
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2021年もコロナ禍て、どないなっとんねん!という猛烈ツッコミを5万回していましたが、なんやかんやでコンテンツを摂取して乗り切りました。 紅白を満喫して、2022年に突入する所存!!!!