あるゲイのサワライ マモル。

社会人2年目、慣れない東京

60、右手に剣を、左手に生首を

床屋から美容室へと、少年は階段をのぼった。

もう10年以上も前のことになります。
ワックスで頭をツンツンさせた中学の同級生に教えてもらい、地方の田舎にはめずらしいガラスばりの建物に初めて足を踏み入れたあの日の緊張は、今でも鮮明です。

「す、すっきり短めにしてください。」という漠然とした注文をなんとかしぼりだし、美容師さんの「部活、やってんの?」というあたりさわりのない質問に必死で答え、背伸びして手に入れたいつもより少しだけオシャレな髪型。帰りの親の車に乗り込むときの窓ガラスに映った、いつもと違う自分にほんのりと舞い上がった。

店先での丁寧なお見送りを照れくさく思いながらあとにしたそのお店は「サムソン&デリラ」という名前だったのですが、なんだかよくわからないカタカナの羅列も、かっこよく感じられ、興奮に拍車がかかりました。

 

なつかしい地元の美容室の店名を急に思い出したのは、東京の美術館で「サムソンとデリラ」という同じ名前の絵画を発見したからでした。

えっ!?と驚いて近くの解説を見ると、旧約聖書に登場する「サムソンとデリラ」という物語を題材にした作品、とあります。
美女デリラの膝枕で眠る、怪力の策士サムソン。
一見、相手を愛おしんでいるかのように見えるデリラの手元にはハサミが光り、サムソンの怪力の源である髪の毛を切ろうとしている場面らしい。サムソンのことをよく思わない連中に買収されたデリラの罠。のどかな膝枕カップルの第一印象がひっくり返り、女の誘惑に屈する男という構図が見事でした。


解説を見て、絵の構造が理解できたとともに、
「そうか!あの美容室の名前は、髪の毛にまつわるこの物語が元ネタだったのか!」
となんだかこの世の真理を見つけてしまったかのような、名探偵にでもなってしまったかのような、猛烈な気づきがあったのでした。


あの長ったらしい名前は、けっしてデタラメに決めたものなんかではなかったんだ。
粋!おしゃれ!目の前の歴史的な名画をそっちのけに、地方都市にも細やかに出店している美容室チェーンに思いを馳せたサワライだったのでした。

 

 

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年末の休みに、上野の国立西洋美術館でやっていた「クラーナハ展」にふらっと行ってきたんです。
ドイツ・ルネサンスを代表する芸術家であるらしいクラーナハさんの作品が拝めるのですが、さっきの「サムソンとデリラ」みたいな、女の誘惑に弱い男コーナーが面白かったな。
神話の英雄ヘラクレスが女神たちに囲まれてただのスケベオヤジみたいなゆるみきった顔になっている絵とか。

ていうか展示会のポスターにもなっている、剣を持った「ユディト」という女の人の絵、涼しい顔して男の生首持ってたからね。
首の断面まで生々しく描かれていて、まじかよ、といった感じで引き寄せられると、どうにもこうにも「凛としている」ユディトの雰囲気が、もしかして素敵なのかも、と思えてくる、そんな作品でした。(グロいの苦手なので最大限の譲歩)

 

クラーナハ展が2016年の美術館おさめでした。
2017年も、美術館ちょっとずつ行きたいなあ。
そんで、ふ~んって感じでうわべをなでるようにカジュアルに楽しんでいきたいです。

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